堂」と慷慨せしめたる、四百年前の最大[#「最大」に白丸傍点]」建築なり。噴飯
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云々
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おちやのみづのうてなたかどのたましけどしなぬくすりをうるみせはなし
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[#5字下げ]東京湾[#「東京湾」は中見出し]
隅田河口は年々陸地を拡げて品川沖は殆《ほとん》ど埋れ尽さんとす。されど最新の式に憑《よ》りて第四回の改築を行ひたる東京湾は桟橋|櫛《くし》の歯の如く並びて、林の如き帆檣《はんしょう》安房上総《あわかずさ》の山を隠したり。第七砲台の跡に建てられたる銅像、日本が数箇の強国を打ち倒し第十四回平和会議の紀念として建てられたる万国平和の肖像は屹然《きつぜん》として天に聳《そび》え、日々月々出入する幾多の船舶の上に慈愛の露を灑《そそ》ぎ居れり。世界第一の大軍艦|豊葦原《とよあしはら》号の帆檣が満潮の際においてなほこの肖像の台石に及ばざる事数尺なりといふ。この時における港湾は最早単一なる船舶|碇繋場《ていけいじょう》にあらずしてむしろ海上の市街なり。万般の必要物は悉《ことごと》くこれを商ふ船舶ありて、いはゆる移動商店(商ひ船の事)は海上に充満せり。水船、酒船、料理船、青物船、小間物船、裁縫船、洗濯船、見世物船、蒸気風呂船、内科医船、外科医船、そのほか日常の事物坐ながらに用を弁ずべし。汽笛には符号ありて、何船にても必要ある者は汽笛を鳴らしてこれを呼ぶ。呼ばれたる移動商店はその呼び主を尋ねてその需要を満たす。便利なる事あるいは陸上に勝れり。さればその便利なるだけそれだけ混雑もまた甚だしく警察船の常に往来するにかかはらず、掏摸《すり》船の災難に罹《かか》る者少からず。平和肖像の下に置かれたる港湾裁判船は日々三十件以上の新訴訟事件を取扱はざる事なしといふ。東邦平和雑誌記者はこの東京湾の未来を論じて世界の大勢に論及し、最後に放言して
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吾人《ごじん》が同胞幾百万の血を以て得たる彼万国平和の慈仁なる肖像に再び不潔の血を塗る時あらば、その時は第十一回平和会議の結果としてこれより十倍大の平和肖像を建設するの時なり。
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といへり。しかれども世人はなほ平和の夢を貪《むさぼ》るに余念なく、宝舟と称する美術船にて今年正月二日に売り捌《さば》きたる七福神の画は未だかつてあらざるの多額に上りたり
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よのなかにわろきいくさをあらせじとたたせるみかみみればたふとし
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[#地から2字上げ]〔『日本』明治32[#「32」は縦中横]・1・1〕
底本:「飯待つ間」岩波文庫、岩波書店
1985(昭和60)年3月18日第1刷発行
2001(平成13)年11月7日第10刷発行
底本の親本:「子規全集 第十二巻」講談社
1975(昭和50)年10月刊
初出:「日本」
1899(明治32)年1月1日
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
※底本では、表題の下に「升」と記載されています。
入力:ゆうき
校正:noriko saito
2010年5月19日作成
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