字餘りの和歌俳句
正岡子規

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)謂《いは》れなき者は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)此掟程|謂《いは》れなき者は

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)稍※[#二の字点、1−2−22]
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 短歌三十一文字と定まりたるを三十二文字乃至三十六文字となし俳諧十七字と定まりたるを十八字乃至二十二三字にも作る事あり。これを字餘りと云ふ。而して字餘りを用うるは例外の場合にて常に用うべきにあらずとは歌人俳諧師等が一般に稱へ來れる掟なり。されど此掟程|謂《いは》れなき者はあらじ。
 三十一文字と定め十七文字と定めし事もと是れ人間が勝手につくりし掟なればそれに外れたりとて常に用うべきにあらずとは笑ふべき謬見《びうけん》なり。字餘りと云ふ文字を用うればこそ此謬見も起るなれ、試みに字餘りと云ふ文字の代りに三十二字の和歌三十三字の和歌十八字の俳句十九字の俳句と云ふが如き文字を用ゐなば字餘りは是れ字餘りにあらずして一種新調の韻文なる事を知るに足らん。新調の韻文を作るに何の例外と云ふ事あらんや。
 或人曰く字餘りの和歌俳句は句調あしく口にたまる心地す故に好んで用うべからずと。稍※[#二の字点、1−2−22]ことわりあるに似たれど再び考ふればこれも亦謂れなき事なり。句調惡しとか口にたまるとか言ふは三十一字又は十七字を標準としての上にて言ふものにして例へば十七字卅一字のつもりにて吟ぜし者が十九字卅三字等ならんか自ら句調惡しく口にたまらざるを得ず。是れ其句切りの長短、發音の伸縮など總て三十一字十七字に適して三十一字十七字以外に適せざればなり。初めより十八九字又は三十二三字の覺悟にて之を吟ずるか若しくは虚心平氣にて敢《あへ》て三十一字十七字と豫定せずして之を吟じなば句調のあしき處もあらざるべし。先づ入る者は主と爲るとか十七字三十一字と古き世より定まれるが故に耳も口も此調に許《ばか》り馴れたるものとおぼし。
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 さりながら習慣の外に句調の善惡と言ふ事なきに非ず。例へば「五」「七」と云ふは調子善きものなれば漢詩には「五言《ごごん》」「七言《しちごん》」多く日本には「五七調」又は「七五調」多きなる
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