うというのは罪の深い事だと気が付いた、そこで直様《すぐさま》善光寺へ駈《か》けつけて、段々今までの罪を懺悔《ざんげ》した上で、どうか人間に生れたいと願うた、七日七夜、椽の下でお通夜して、今日満願というその夜に、小い阿弥陀《あみだ》様が犬の枕上に立たれて、一念発起の功徳《くどく》に汝が願い叶《かな》え得さすべし、信心|怠《おこた》りなく勤めよ、如是畜生発菩提心、善哉善哉、と仰せられると見て夢はさめた、犬はこのお告《つげ》に力を得て、さらば諸国の霊場を巡礼して、一は、自分が喰い殺したる姨の菩提を弔《とむら》い、一は、人間に生れたいという未来の大願を成就《じょうじゅ》したい、と思うて、処々経めぐりながら終に四国へ渡った、ここには八十八個所の霊場のある処で、一個所参れば一人喰い殺した罪が亡びる、二個所参れば二人喰い殺した罪が亡びるようにと、南無大師遍照金剛と吠《ほ》えながら駈け廻った、八十七個所は落ちなく巡って今一個所という真際《まぎわ》になって気のゆるんだ者か、そのお寺の門前ではたと倒れた、それを如何にも残念と思うた様子で、喘《あえ》ぎ喘ぎ頭を挙げて見ると、目の前に鼻の欠けた地蔵様が立ってご
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