権助と早くいえば善いじゃないか、犬だ犬だなんて」。「だって間がわるいでがすヨ」。「間がわるい、なぜ間がわるいのだヨ」。「あんだって間がわるいでがすヨ」。「変だねエ、お前そこで何して居たのだヨ」。「白状しますべいか」。「白状する、何を白状するのだ、何か知らないが悪い事があるなら白状するが善い」。「実は夜べえに来たでがすヨ」。「夜這に来た、夜這に来たッておれのうちに女気は一人も半分もないじゃないか」。「ナニあるでがすヨ」。「変な事いうネ、おれの女房は三年前に死んだし、娘は持たず、お三どんだッて置かないのはお前も知ってる通りだろうじゃないか」。「なんといわしっても可愛い可愛い娘ッ子があるから仕方がねエだヨ」。「娘ッ子がある、どんな娘ッ子がある」。「ソレ顔の黒い、手足の白い、背中が黒くって腹が白くッて」。「オヤ変な娘ッ子だネ、そうしてその娘ッ子がおとなしくなびいたかい」。「イヤしくじったでがすヨ、尻尾をひッつかまえると驚いて吠《ほ》えただからネ」。[#地から2字上げ]〔月日不詳〕



底本:「飯待つ間」岩波文庫、岩波書店
   1985(昭和60)年3月18日第1刷発行
   2001(平成
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