権助の恋
正岡子規

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)曲者《くせもの》

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(例)[#地から2字上げ]〔月日不詳〕
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 夜半にふと眼をさますと縁側の処でガサガサガタと音がするから、飼犬のブチが眠られないで箱の中で騒いで居るのであろうと思うて見たが、どうもそうでない。音の工合が犬ばかりでもないようだ。きっと曲者《くせもの》が忍びこんだのに違いない。犬に吠えられないように握飯でも喰わして居るのだろう、一つ驚かしてやろうと、考えて居る内、忽ちすさまじい音がして、犬は死物狂いの声を出して逃出したようであった。「誰だ」ト内からいうと少しあわてた声で「犬だ犬だ」トいう。「変だナ犬だ犬だなんて、誰だヨそこに居るのは」。「ナニ犬だヨ」。「オヤまだあんな事いってる、犬だ犬だというのは誰だというのだヨ」。「ナニ犬だヨ」。「オヤおかしいネ、犬が口きくかい、その口きいて居るのは誰だヨ」。「ナニ犬の代理だよ」。「オヤ犬の代理だと、いよいよおかしいネ、誰だよ、犬の代理なんかして居るのは」。「権助でがすヨ」。「権助かい、権助なら
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