日記に梦を書きつける
【廓】
にくらしき客に豆うつねらひ哉
此頃は聲もかれけり鉢たゝき
本陣にめして聞かばや鉢叩
つみあげて庄屋ひれふす年貢哉
道※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、161−5]にこぼるゝ年のみつぎ哉
ふるまはん深草殿に玉子酒
臘八のあとにかしましくりすます
嵐雪の其角におくる紙衣哉
柊をさす頼朝の心かな
顏見せやぬす人になる顏はたれ
常闇を破る神樂の大鼓哉
榾の火に石版摺のすゝけかな
すとうぶや上からつゝく煤拂
初暦めでたくこゝに古暦
手をちゞめ足をちゝめて冬籠
貧乏は掛乞も來ぬ火燵哉
世の中を紙衣一つの輕さかな
鼻息に飛んでは輕し寶舟
手と足に蒲團引きあふ宿屋哉
廿五年 終りの冬 天文 地理
【鐵眼師によす】
凩や自在に釜のきしる音
【寄贈馬骨】
凩や京にそがひの家かまへ
【訪愚庵】
淨林の釜にむかしを時雨けり
冬の日の二見に近く通りけり
凩や夜着きて町を通る人
とりまいて人の火をたく枯野哉
馬糞も共にやかるゝ枯野哉
新宿に荷馬ならぶや夕時雨 樗堂ノ句 荷をつけてしぐるゝ馬や軒の下
[#「樗堂ノ句 荷をつけてしぐるゝ馬や軒の下」は「新宿に荷馬ならぶや夕時雨」の下にポイントを下げて2行で]
【玉川】
鮎死て瀬の細りけり冬の川
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉 重出
吹雪くる夜を禪寺に納豆打ツ
稻かりて力無き冬の初日哉
雪の脚寶永山へかゝりけり
朝霜や藁家ばかりの村一つ
松杉や枯野の中の不動堂
色里や時雨きかぬも三年ごし
夜廻りの鐵棒はしる霰哉
十一騎面もふらぬ吹雪かな
誰かある初雪の深さ見て參れ
【乞食】
初雪の重さ加減やこもの上
【石手寺】
しくるゝや弘法死して一千年
白きもの又常盤なりふじの雪
赤煉瓦雪にならびし日比谷哉
親牛の子牛をねぶる霜夜哉
しぐるゝやともしにはねる屋根の漏
灯の青うすいて奧あり藪の雪
爪琴の下手を上手にしぐれけり
猪の 牙ふりたてる 吹雪哉
岩ふみはづす
[#「牙ふりたてる岩ふみはづす」は、「猪の」と「吹雪哉」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
むつかしき姿も見えず雪の松
くれ竹の雪ひつかつき伏しにけり
内川や外川かけて夕しぐれ
興居嶋へ魚舟いそぐ吹雪哉
瀧壺の渦にはねこむ霰哉
凩にはひつくばるや土龜山
引拔た手に霜殘る大根哉
角《カク》池の四隅に殘る氷かな
寒月に悲しすぎたり兩大師
子をかばふ鶴たちまどふ吹雪哉
浪ぎははさらに横ふくふゞき哉
初雪の瓦屋よりも藁屋哉
ふらばふれ雪に鈴鹿の關こえん
吹雪來んとして鐘冴ゆる嵐哉
關守の雪に火を燒く鈴鹿哉
かるさうに提げゆく鍋の霰哉
曙や都うもれて雪の底
熊笹の緑にのこる枯の哉
廿五年 終りの冬 生物
さゝ啼や小藪の隅にさす日影
馬糞のぬくもりにさく冬牡丹
※[#「※」は「さんずい+氣」、第4水準2−79−6、166−4]車道の一すぢ長し冬木立
さゝ啼や茂草の奧の松蓮寺
さむらいは腹さへきると河豚汁
煤拂のそばまで來たり鷦鷯
蝉のから碎けたあとや歸り花
冬の梅裏手の方を咲きにけり
側イ
馬糞の中から出たり鷦鷯
[#「側イ」は「中」の右側に注記するような形で]
はげそめてやゝ寒げ也冬紅葉
【千嶋艦覆沒】
ものゝふの河豚にくはるゝ悲しさよ
麥蒔やたばねあげたる桑の枝
ちる紅葉ちらぬ紅葉はまだ青し
木の葉やく寺のうしろや普請小屋
【議會】
麥蒔た顏つきもせす二百人
石原に根強き冬の野菊哉
冬枯の草の家つゝく烏哉
薄とも蘆ともつかず枯れにけり
凩に尻をむけけり離れ鴛
小石にも魚にもならず海鼠哉
鮭さげて女のはしる師走哉
燒芋をくひ/\千鳥きく夜哉
千鳥啼く揚荷のあとの月夜哉
千鳥なく三保の松原風白し
海原に星のふる夜やむら千鳥
いそがしく鳴門を渡る千鳥哉
一村は皆船頭や磯千鳥
帆柱や二つにわれてむら千鳥 曉臺ノ句 風早し二つにわれてむら千鳥
[#「曉臺ノ句 風早し二つにわれてむら千鳥」は「帆柱や二つにわれてむら千鳥」の下にポイントを下げて2行で]
安房へ行き相模へ歸り小夜千鳥
磯濱や犬追ひ立てるむら千鳥
文覺をとりまいて鳴く千鳥哉
こさふくや沖は鯨の汐曇り
生殘る蛙あはれや枯蓮
凩にしつかりふさぐ蠣の蓋
旅籠屋や山見る窓の釣干菜
冬椿猪首に咲くぞ面白き
冬枯やいよ/\松の高うなる
冬枯に枯葉も見えぬ小笹哉
天地の氣かすかに通ふ寒の梅
おろ/\と一夜に痩せる暖鳥
ぬく/\と日向かゝえて※[#「※」は「奚+隹」、第3水準1−93−66、169−2]つむる 春季カ
明の月白ふの鷹のふみ崩す
冬枯のうしろに 高し 不二の山
立つや
[#「高し立つや」は、「冬枯のうしろに」と「不二の山」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
冬枯の野に學校のふらふ哉
【松枝町】
四五枚の
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