一葉哉
わりなしや小松をのぼる蔦紅葉
蔦の葉をつたふて松の雫哉
松二木蔦一もとのもみぢ哉

【再遊松林舘】
色かへぬ松や主は知らぬ人
[#改頁]

明治廿五壬辰年
はじめの冬 天文

ほんのりと茶の花くもる霜夜哉
北風や芋屋の烟なびきあへず
呉竹の奧に音あるあられ哉
青竹をつたふ霰のすべり哉
一ツ葉の手柄見せけり雪の朝
雪の夜や簔の人行く遠明り
初雪や小鳥のつゝく石燈籠
初雪をふるへばみのゝ雫かな
一里きて酒屋でふるふみのゝゆき
初雪や奇麗に笹の五六枚
雪の中うたひに似たる翁哉
靜かさや雪にくれ行く淡路嶋
雪の日の隅田は青し都鳥
からかさを千鳥はしるや小夜時雨
さら/\と竹に音あり夜の雪
初雪や輕くふりまく茶の木原
雪折の竹に乞食のねざめ哉
白雪におされて月のぼやけ哉
うらなひの鬚にうちこむ霰哉
夜廻りの木に打ちこみし霰哉
三日月を時雨てゐるや沖の隅
吹付てはては凩の雨もなし

【乕圖】
万山の木のはの音や寒の月
凩や虚空をはしる氣車の音
     かけイ
[#「かけイ」は「はし」の左側に注記するような形で]
牛若の下駄の跡あり橋の霜

【達磨三味をひく 画賛】
凩に三味も枯木の一ツ哉
朝霜を洗ひ落せし冬菜哉
凩や追手も見えすはなれ馬
新聞で見るや故郷の初しくれ
時雨るや筧をつたふ山の雲

冬雜(天文除)

【高田の馬場にすむ古白のもとを訪ふて】
日あたりや馬場のあとなる水仙花

【一月廿二日夜半ふと眼を開けば※[#「※」は「あなかんむり+「聰」のつくり」、第3水準1−89−54、154−10]外月あかし扨は雨戸をや引き忘れけんと思ひて左の句を吟ず翌曉さめて考ふれば前夜の發句は半醒半梦の間に髣髴たり】
冬籠夜着の袖より※[#「※」は「あなかんむり+「聰」のつくり」、第3水準1−89−54、154−14]の月
炭二俵壁にもたせて冬こもり

【破蕉先生に笑はれて】
冬こもり小ぜにをかりて笑はるゝ
鰒汁や髑髏をかざる醫者の家
骨折て四五輪さきぬ冬のうめ
茶坐敷の五尺の庭を落葉哉
籔ごしやはだか參りの鈴冴る

【不忍池】
水鳥の中にうきけり天女堂
冬枯や蛸ぶら下る煮賣茶屋
ものくはでかうもやせたか鉢敲
達磨忌や戸棚探れは生海鼠哉
出つ入つ數定まらぬ小かもかな
犬張子くづれて出たり煤拂
鉢叩頭巾をとれははげたりな
面白うたゝかば泣かん鉢叩
宵やみに紛れて出たり鉢敲
森こえて枯野に來るや旅烏
煤拂のほこりの中やふじの山

【煙草道具 画賛】
吹きならふ煙の龍や冬こもり
手の皺を引きのばし見る火鉢哉
夜著かたくからだにそはぬ寒さ哉

廿五年 終りの冬 時節

いそがしく時計の動く師走哉

【高尾山〔二句〕】
凩をぬけ出て山の小春かな
不二を背に筑波見下す小春哉
小春日や又この背戸も爺と婆
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉
爲朝のお宿と書し寒さ哉
病人と靜かに語る師走哉

【松山會】
行年を故郷人と酌みかはす
初冬に何の句もなき一日かな
行年を鐵道馬車に追付ぬ
返事せぬつんぼのぢゞや神無月
屋の棟に鳩のならびし小春哉
御格子に切髮かくる寒さ哉
馬糞のいきり立たる寒さ哉
鳥居より内の馬糞や神無月
馬痩せて鹿に似る頃の寒さ哉
君が代は大つごもりの月夜哉
※[#「※」は「「韓」のへん+「礼」のつくり」、157−14]鮭も熊も釣らるゝ師走哉
魚棚に熊笹青き師走哉
年の尾や又くりかへすさかさ川
ありたけの日受を村の冬至哉
乞食寄る極樂道や小六月
仰向けぬ入道畠の寒さ哉
玉川に短き冬の日脚哉
年のくれ乞食の梦の長閑也
きぬ/\にものいひ殘す寒哉
年のくれ命ばかりの名殘哉
ぬす人のぬす人とるや年の暮
白足袋のよごれ盡せし師走哉
いそがしい中に子を産む師走哉
羽子板のうらに春來る師走哉
年の暮月の暮日のくれにけり

廿五年 終りの冬 人事 器用

鉢叩雪のふる夜をうかれけり

【茶店にて】
穗薄になでへらされし火桶哉
月花にはげた頭や古頭巾
炭竈に雀のならぶぬくみかな
古暦雜用帳にまぎれけり
きぬ/″\に寒聲きけは哀れ也
金杉や二間ならんで冬こもり
猫老て鼠もとらず置火燵
君味噌くれ我豆やらん冬こもり
同じ名のあるじ手代や夷子講
此度は娵にぬはせじ角頭巾

【讀書燈】
古はくらしらんぷの煤拂
しぐれずに空行く風や神送
※[#「※」は「「韓」のへん+「礼」のつくり」、160−1]鮭の腹ひや/\と風の立つ
節分や親子の年の近うなる
※[#「※」は「奚+隹」、第3水準1−93−66、160−3]もうたひ參らす神迎
達磨忌や混沌として時雨不二
湯の山や炭賣歸る宵月夜
節季候の札の辻にて分れけり
どの馬で神は歸らせたまふらん
寒聲や誰れ石投げる石手川
遠ざかり行く松風や神送り

【松山】
掛乞の大街道となりにけり
塩燒くや煤はくといふ日もなうて
老が齒や海雲すゝりて冬籠
冬籠
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