やずんずとのびて藪の上
         重イ
筍はまだ根ばかりの太さかな
[#「重イ」は「太」の右側に注記するような形で]
竹の子や隣としらぬはえ處
のせて見て團扇に重しまくわ瓜
ほき/\と筍ならぶすごさ哉
うれしけに犬の走るや麥の秋
麥秋や庄屋の娵の日傘
麥の秋あから/\と日はくれぬ
紫蘇はかり薄紫のあき家哉
冷瓜浪のかしらにほかん/\
なでしこにざうとこけたり竹釣瓶
井戸端に妹が撫し子あれにけり
引はれば沈む蓮のうき葉かな
夏菊や旅人やせる木曾の宿 一作 夏菊や木曾の旅人やせにけり
[#「一作 夏菊や木曾の旅人やせにけり」は「夏菊や旅人やせる木曾の宿」の下にポイントを下げて2行で]

【關原】
誰が魂の梦をさくらん合歡の花
不破の關桑とる女こととはん 春季
苗の色美濃も尾張も一ツかな
清姫か涙の玉や蛇いちご
晝※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、91−14]の眞ツ晝中を開きけり
一本の葵や虻ののぼりおり
鎌倉は村とよばるゝ青葉かな
姫百合に※[#「※」は「「韓」のへん+「礼」のつくり」、92−2]飯こぼす垣根かな

【賀山本氏卒業】
すゝしさイ
うるはしや竹の子竹になりおふせ
[#「すゝしさイ」は「うるはしや」の右側に注記するような形で]
痩馬もいさむ朝日の青葉かな
夕※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、92−6]に行脚の僧をとゞめけり

【偸盜戒】
瓜盜むこともわすれて涼みけり
夕立にふりまじりたる李かな
瓜一ツだけば鳴きやむ赤子かな
心見に雀とまれや今年竹
旱さへ瓜に痩せたるふりもなし
一ツ葉の水鉢かくす茂り哉
雲の峰の麓に一人牛房引
涼しさやくるり/\と冷し瓜
瓜持て片手にまねく子供哉
棉の花葵に似るも哀れなり

【岡山徳島等洪水】
泥水に夕※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、93−4]の花よごれけり
一つらに藤の實なびく嵐哉
古池や蓮より外に草もなし
入相にすぼまる寺のはちす哉

【不忍池】
桃色は辨天樣のはちすかな
隱れ家に夏も藜の紅葉哉
老がはで藜の杖に殘しけり
箒木にまじりて青き藜哉
山イ
尼寺に眞白ばかりの蓮哉
[#「山イ」は「尼」の右側に注記するような形で]
咲立つて小池のせまき蓮哉
ぐるりからくろはひ上る南瓜哉
浦嶋草さくやこじきも家持て

【牛淵村にて諸友と互に別るゝ時】
茄子南瓜小道/\の別れ哉
茗荷よりかしこさうなり茗荷の子
藺の花の葉末にさかぬ風情哉
栗の花筧の水の細りけり
風蘭や岩をつかんでのんだ松
蓮の露ころかる度にふとりけり

【画賛】
討死の甲に匂ふあやめかな

【墨画賛】
此頃は薄墨になりぬ百日白
青天に咲きひろげゝり百日紅
白砂に熊手の波やちり松葉
花一つ/\風持つ牡丹哉
萍や出どこも知らず果もなし
藻の花や小川に沈む鍋のつる
卯の花や月夜となればこぼれ立つ
山百合や水迸る龍の口
夕顏 や闇吹き入れる 三日の月
   にまぶれて白し
[#「や闇吹き入れるにまぶれて白し」は、「夕顏」と「三日の月」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
卯の花に不二ゆりこぼす峠哉

【三阪】
旅人の歌上りゆく若葉哉
宵月や牛くひ殘す花茨
葉櫻の上野は闇となりにけり
葉柳の五本はあまる庵哉
夕顏は画にかいてさへあはれなり
夕顏や膝行車を立てさせて

【戀】
卯の花の宿とばかりもことづてん

【戀】
うつむいた恨みはやさし百合の花
窓かけや朧に匂ふ花いばら

【立花口】
絶間より人馬の通ふ若葉哉
萍の杭に一日のいのちかな
生きてゐるやうに動くや蓮の露
紫陽花に淺黄の闇は見えにけり
夕かほのやみもの凄き裸かな
白過ぎてあはれ少し蓮の花
白水の押し出す背戸や杜若
いわけなう日うらの白き胡瓜哉
凌霄や煉瓦造りの共うつり
浮草をうねりよせたるさ波哉
開いても開いてもちるけしの花
重たさを首で垂れけりゆりの花
傘はいる若葉の底の家居哉
[#改頁]

廿五年 秋 時候 人事
    すくむや
鷄の塒に小さし秋のくれ
[#「すくむや」は「小さし」の右側に注記するような形で]
燈籠としらずに來たり灯取虫
ぬすんたる瓜や乞食の玉まつり
箒星障子にひかる夜寒哉
秋たつや鶉の聲の一二寸
何げなく引けと鳴子のすさましき
旅人を追かけてひく鳴子哉
稻妻にひとゆりゆれる鳴子かな
烏帽子着て送り火たくや白拍子
引けば引くものよ一日鳴子引
思ひ出し/\ひく鳴子哉
ひとりゆれひとり驚く鳴子かな
どこやらに稻妻はしる燈籠哉
稻妻に燈籠の火のあばきかな
[#「どこやらに」と「稻妻に」の句の上には、この二つの句を括る波括弧あり]
家根の上にどこの哀れぞ揚燈籠
     よそイ  やイ
[#「よそイ」は「どこ」の左側に、「やイ」は「ぞ」の左側に注記するような形で]
籔陰を誰がさげて行く燈籠
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