や燕
すう/\と鳥雲に入てしまひけり
この頃の月に肥えたる白魚哉
ある時は月にころがる田螺哉
長町のかどや燕の十文字
【石手川出合渡】
若鮎の二手になりて上りけり
【松山堀端】
門しめに出て聞て居る蛙かな
【八幡】
鷹鳩になる此頃の朧かな
大佛を取て返すや燕
燕や二つにわれし尾のひねり
【乞食】
蝶ふせた五器は缺けたり面白や
燕の何聞くふりぞ電信機
牛若をたとへて見れば小鮎哉
盜人の晝寐の上や揚雲雀
濁り江の闇路をたどる白魚哉
鐵門に爪の思ひや廓の猫
子に鳴いて見せるか雉の高調子
行き/\てひらりと返す燕哉
さかさまに何の梦見る草の蝶
五器の飯ほとびる猫の思ひかや
鶯の筧のみほす雪解哉
白魚は雫ばかりの重さ哉
〔春 植物〕
ちりはてゝ花も地をはふ日永哉
飯章魚の花に死んだるほまれ哉
恐ろしき女も出たる花見哉
娘おす膝行車の花見かな
ふつ/\と彼岸櫻の莟哉
花守の烏帽子かけたる櫻哉
猿引は猿に折らする櫻哉
町はつれ櫻/\と子供哉
谷底に樵夫の動く櫻かな
もや/\とかたまる岨の櫻かな
殿方に手をひかれたる花見哉
白馬の一騎かけたり朝櫻
夜櫻や蒔繪に似たる三日の月
ちることは禿もしらず夕櫻
別莊の注進來たりはつ櫻
大かたの枯木の中や初櫻
夕くれを背戸へ見に行櫻哉
花さかり月に雨もつよもすから
夜櫻の中に火ともす小家哉
夜櫻や露ちりかゝる辻行燈
小娘のからかささすやちる櫻
山鳥の木玉すさまし花の奧
白桃の櫻にまじる青さ哉
土器に花のひツつく神酒《ヲミキ》哉
籠一ツ花を押きる夜明哉
わびしらに櫻ちるなり緋の袴
競吟 さゝ波のなりにちゝまる和布哉[#「競吟」は上部に出ている]
せり吟 藤の芽は花さきさうになかりけり[#「せり吟」は上部に出ている]
ほうけたるつくし陽炎になりもせん
せり吟 鍋墨を靜かになてる柳かな[#「せり吟」は上部に出ている]
〃 万歳の鼓にひらく梅の花[#「〃」は上部に出ている]
山吹の中に 米つくよめ御かな
顏出す臼のおと
[#「米つくよめ御かな顏出す臼のおと」は「山吹の中に」の下にポイントを下げて2行で]
木蓮花鐵燈籠の黒さかな
山櫻さく手際よりちる手際
花を見ぬ人の心そ恐ろしき
傾城の息酒くさし夕櫻
山吹や折/\はねる水の月
上ケ土のあひにわりなし蓮花草
苗代や籾をかぶつてなく蛙
苗代や月をおさえてなく蛙
妹が門つゝじをむしる別れ哉
山吹の垣にとなりはなかりけり
さゝやかな金魚の波や山つゝし
かけはしやあぶないとこに山つゝし
の目にはさまりし にては如何
石橋に芽のすりきれる柳かな
[#「の目にはさまりし」は「に芽のすりきれる」の右側に、「にては如何」は「柳かな」の右側に、注記するような形で]
烏帽子着た人も見ゆるや嵯峨の花
乞食の嫁入にぎわし花の山
大木に喰ひついてさく梅の花
くひついて古木に咲や梅の花
[#「大木に」と「くひついて」の句の上には、この二つの句を括る波括弧あり]
片枝は磨鉢黒し梅の花
櫻ちる此時木魚猶はげし
紅梅や雪洞遠き長廊下
灰吹にした跡もあり落椿
一鞭に其數知れず落椿
いもうとの袂探れば椿哉
【十六日櫻】
孝行は筍よりも櫻かな
【西山山内神社】
西山の花に抱きつく涙哉
【伊豫太山寺】
菎蒻につゝじの名あれ太山寺
荒れにけり茅針まじりの市の坪
【椿神社】
賽錢のひゞきに落る椿かな
【松山】
古町より外側に古し梅の花
日うけよき水よき処初櫻
【松山】
白魚の又めぐりあふ若和布哉
梅ちらり/\と松の木の間哉
櫻より奧に桃さく上野哉
三日月のほのかに白し茅花の穗
此頃は井出の山吹面白し
瓦斯燈にかたよつて吹く柳哉
【山内神社】
西山に櫻一木のあるじ哉
紅梅や式部納言の話聲
花にさへぬす人の名のもの/\し
紅梅の一輪殘る兜かな
洋本の間にはさむ櫻かな
御白粉に白うよごれし菫かな
梅の花白きをもつてはじめとす
石炭の車ならぶや散る櫻
花の雲博覽會にかゝりけり
【上野】
黒門に丸の跡あり山さくら
【よし野】
醉ふて寐て夢に泣きけり山櫻
四斗樽を床几に花の木陰哉
井戸端の櫻ちりけり鍋の底
紅梅の可愛や雪の朝朗
花に來て花にこがるゝ夕哉
何程の事かあるべき花の雨
朝櫻駒のひづめのひや/\と
花ちるや人なき夜の葭簀茶屋
わびたりや小鍋にまじる雪若菜
はいつてはくゞつては出ては花の雲
家一つ花より上に見ゆるかな
しんとして露をこぼすや朝櫻
さん候いかさま花の都かな
花盛知らぬ男のいだきつく
茶屋もなく酒屋も見えず花一木
青海苔や水にさしこむ日の光
【四月十四日朝梦想】
骸骨となつて木陰の花見哉
梅若の夢をしづむる柳哉
梅正に綻びそむる紀元節
李の花に宮司の娵の端居哉
浪花津は海もうけたり梅の花
馬繋ぐ薄紅梅の戸口かな
紅梅に琴の音きほふ根岸哉
[#改頁]
廿
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