れて到る。物無く句無し。
一、一個の大鍋は座敷の中央に据ゑられ、鍋を圍んで坐する人九人、伏す人一人、いづれも眼を圓くし、鼻息を荒くして鍋の中を睥睨す。鍋の中から仁木彈正でもせり上りさうな見え[#「え」は「江」のくずし字]なり。ぬば玉の闇汁會はいよ/\幕あきとなりぬ。
一、鳴雪翁曰く、飯を喰ふて來て殘念しましたと。先づ椀を取つてなみ/\と盛る。それより右※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りに順を追ふて各盛る、廻つて未だ半に至らず鳴雪翁既に二杯目を盛る。「實にうまいです」。
一、盛るに從つて杓子にかゝる者、青物類はいふに及ばず、豚あり、魚あり、餅あり、竹輪あり、海の物、山の物、何が何といふ事を知らず。只かゝらぬは一寸八分の觀音樣あるのみ。
一、鍋の中を杓子にてかきまぜながら「ヤー/\※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2−92−68]餅がかゝつたぞ、誰だ/\、大福を入れたのは」と碧梧桐※[#「口+斗」、20−6]ぶ。皆々笑ふ。固より入れた者の外に入れた者を知らず。
一、鳴雪翁曰く、うまい。碧梧桐曰く、うまい。四方太曰く、うまい。繞石曰く、うまい。我曰く、うまい。虚子曰く、うまい
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