」に白丸傍点]を重ねて完結する者にして小勝負一度とは甲《こう》組(九人の味方)が防禦《ぼうぎょ》の地に立つ事と乙《おつ》組(すなわち甲組の敵)が防禦の地に立つ事との二度の半勝負に分るるなり。防禦の地に立つ時は九人おのおのその専務に従い一、二、三等の位置を取る。但しこの位置は勝負中多少|動揺《どうよう》することあり。甲組競技場に立つ時は乙組は球を打つ者ら一、二人(四人を越《こ》えず)の外《ほか》はことごとく後方に控《ひか》えおるなり。

(い) 本基《ホームベース》
(ろ) 第一|基《ベース》(基を置く)
(は) 第二基(基を置く)
(に) 第三基(基を置く)
(一) 攫者《キャッチャー》の位置(攫者の後方に網を張る)
(二) 投者《ピッチャー》の位置
(三) 短遮《ショルトストップ》の位置
(四) 第一|基人《ベースマン》の位置
(五) 第二基人の位置
(六) 第三基人の位置
(七) 場右《ライトフィルダー》の位置
(八) 場中《センターフィルダー》の位置
(九) 場左《レフトフィルダー》の位置

○ベースボールの勝負[#「ベースボールの勝負」に白ゴマ傍点] 攻者[#「攻者」に二重丸傍点](防禦者の敵)は一人ずつ[#「は一人ずつ」に二重丸傍点]本基《ホームベース》(い)より発して各[#「より発して各」に二重丸傍点]基《ベース》(ろ、は、に)を通過し再び本基に帰るを務めとす[#「を通過し再び本基に帰るを務めとす」に二重丸傍点]、かくして帰りたる者を[#「かくして帰りたる者を」に傍点]廻了《ホームイン》という[#「という」に傍点]。ベースボールの勝敗は九勝負終りたる後ち[#「ベースボールの勝敗は九勝負終りたる後ち」に傍点]、各組廻了の数の総計を比較し多き方を勝とするなり[#「各組廻了の数の総計を比較し多き方を勝とするなり」に傍点]。例えば「八に対する二十三の勝」というは乙組の廻了の数八甲組廻了の数二十三にして甲組の勝なりという意なり。されば競技者の任務を言えば攻者《こうしゃ》の地に立つ時はなるべく廻了の数を多からしめんとし、防者《ぼうしゃ》の地に立つ時はなるべく敵の廻了の数を少からしめんとするにあり。廻了というは正方形を一周することなれどもその間には第一|基《ベース》第二基第三基等の関門あり各関門には番人(第一基は第一基人これを守る第二第三|皆《みな》しかり)あるをもって容易に通過すること能《あた》わざる也《なり》。走者《ラナー》(通過しつつある者)ある事情のもとに通過の権利を失うを除外《アウト》という。(普通に殺される[#「殺される」に傍点]という)審判官《アムパイア》除外と呼べば走者(または打者《ストライカー》)は直《ただ》ちに線外に出《い》でて後方の控所《ひかえじょ》に入らざるべからず。除外三人に及べばその半勝負は終るなり。故に攻者は除外三人に及ばざる内に多く廻了《ホームイン》せんとし防者は廻了者を生ぜざる内に三人の除外者を生ぜしめんとす。除外三人に及べば防者代りて攻者となり攻者代りて防者となる。かくのごとくして再び除外三人を生ずればすなわち第一|小勝負《インニング》終る。かれ攻《せ》めこれ防ぎおのおの防ぐ事九度、攻むる事九度に及びて全|勝負《ゲーム》終る。
○ベースボールの球[#「ベースボールの球」に白ゴマ傍点] ベースボールにはただ一個の[#「ベースボールにはただ一個の」に白丸傍点]球《ボール》あるのみ[#「あるのみ」に白丸傍点]。しかして球は常に防者の手にあり[#「しかして球は常に防者の手にあり」に白丸傍点]。この球こそこの遊戯の中心となる者にして球の行く処すなわち遊戯の中心なり[#「この球こそこの遊戯の中心となる者にして球の行く処すなわち遊戯の中心なり」に白丸傍点]。球は常に動く故に遊戯の中心も常に動く[#「球は常に動く故に遊戯の中心も常に動く」に白丸傍点]。されば防者九人の目は瞬時も球を離るるを許さず[#「されば防者九人の目は瞬時も球を離るるを許さず」に白丸傍点]。打者走者も球を見ざるべからず[#「打者走者も球を見ざるべからず」に傍点]。傍観者もまた球に注目せざればついにその要領を得ざるべし[#「傍観者もまた球に注目せざればついにその要領を得ざるべし」に傍点]。今|尋常《じんじょう》の場合を言わば球は投者《ピッチャー》の手にありてただ本基《ホームベース》に向って投ず。本基の側には必らず打者《ストライカー》一人(攻者の一人)棒《バット》を持ちて立つ。投者の球正当の位置に来れりと思惟《しい》する時は(すなわち球は本基の上を通過しかつ高さ肩《かた》より高からず膝《ひざ》より低くからざる時は)打者必ずこれを撃《う》たざるべからず。棒|球《ボール》に触《ふ》れて球は直角内に落ちたる時(これを正球《フェアボール》という)打者は
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