て、すこし微温《ぬる》いようだといって、湯の栓《せん》を捻《ひね》った。それから、湯の量が少ないといって水の栓も開けた。こうして二つの栓から迸《ほとばし》る湯と水の音で、彼はつぎの行動に移る前に、あらかじめ物音を消しておこうとしたのだ。じつに用意周到なやり方だった。首から上だけを出して湯に浸《つ》かっていたアリスは、とつぜん良人《おっと》の手が頭にかかったので、笑顔を上げた。浴槽へまで来て狂暴な愛撫をしようとする良人を、嬉しく思ったのだ。ブラドンは、片手でアリスの上半身を押え付けて、片手で彼女の頭を股の間に捻《ね》じ込もうとした。はじめアリスは冗談と思ったのだが、良人《おっと》の手に力が加わって、真気《ほんき》に沈めようとかかっているので、急に狼狽《ろうばい》して※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36、142−15]《もが》き始めた。しかしまもなく、彼女の頭部は湯の中に没して、しばらく両手を振って悶《もだ》えていたが、すぐぐったり[#「ぐったり」に傍点]となって、その頭髪は浴槽いっぱいに拡がるよう見えた。騒ぎは、ブラドンの意図したとおり、水音に覆われ、浴室外へはすこしも洩れなかっ
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