ム起《た》ちえなかったのだろう。悲しむべき不注意である。口々に慰められて、ロイドはぽかんと口を開けて空を凝視《みつ》めているかと思うと、激しくマアガレットの名を呼び続けたりした。発狂か自殺の懼《おそ》れがあるというので、忙しいブラッチ夫人にとうぶんロイドを見張る用事が付加された。が、三日後にロイドは泣きの涙のうちに、ジェパアンズ・ブッシュの弁護士に頼んで、遺書によってマアガレットの遺《のこ》した物を掻《か》き集め、「泣く泣く」七百ポンドの保険金を受け取っている。が、このマアガレット殺しが、ブリストルの骨董《こっとう》商ジョウジ・ジョセフ・スミスの最後の「掘出物」であった。自分でもおおいに意外だったろう。足はなにからつくかわからない。
殺人鬼とか殺人狂とかいうこの類型に属する犯人には精神異常者が多いというが、このジョウジ・ジョセフ・スミスは例外だった。細心をきわめた手口を観《み》てもわかるように、彼はじつに組織的な時としてははるかに普通人を凌駕《りょうが》する明徹な頭脳の所有者だった。普段は怠惰《たいだ》なくせに、「浴槽の花嫁」の場合にだけ、異様に敏活巧緻《びんかつこうち》に働くのだか
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