sしょほうせん》を書いて、部屋へ帰って寝るようにいった。二人は辞し去った。が、部屋へではなかった。すぐそこから弁護士へ廻って、例によって互いを相続人にした遺書を書いて手交しあっている。財産もなにもないマアガレット・エリザベス・ロフティの相続人になったところでしょうのないようなものだが、この男は、「形式は形式として整えておく」ことが大好きだったとみえる。それに、たとえ服一枚靴一足にしろ、死んでゆくと決定した女――もっとも女自身は知らないが、人間は多くの場合自分の死期を知らないものだから、これは無理もない――その女の身についているものは、なんによらず一切|合切《がっさい》もらうことにしておいて、いっこう差閊《さしつか》えない。どうせ死んでしまえば用のない品物だから、この自分が「相続」して金に換えるんでもなければ無駄になると考えたのだろう。実際どうも細かい男だった。
5
ベイツ医師の所から弁護士へまわったその日である。午後七時半ごろだった。ロイド夫人が入浴したいと言うので、その仕度《したく》をして、おかみのブラッチ夫人が階下から呼ばわった。
「ロイドの奥さん、お湯が立ち
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