烽、まく遣《や》った商売《デイル》の一つだった。殺す前にベシイを唆《そそのか》して、自分はときどき発作に襲われるようになったというようなことを手紙に書いて、方々の親類へ出させたのだ。その中にはヘンリイとその愛の生活といったような惚気《のろけ》混《まじ》りの文句もある。そして、自分は良人《おっと》を愛するし、良人もよくしてくれるから、良人を全財産の相続人として遺書を作ったと報告している。なにしろ故人がまだ生きているうちに手記したものだから、この手紙はヘンリイにとって大きな便宜《べんぎ》となった。そのために、屍《し》体の解剖を主張した伯父パトリック・マンデイの要求も斥《しりぞ》けられて、フレンチ医師のとおり一遍の死亡検案書がそのまま通った。事件の四日目から彼は相続の手続を始めている。親類の中には死因に疑念を挟《はさ》む者もあって、パトリック・マンデイを先頭に立てていちじは訴訟になりそうな形勢だったが、なにしろベシイの遺言書に法律上の瑕瑾《きず》がないので、ついに折れて手を引いてしまった。二千五百ポンド――二万五千円――はヘンリイ・ウイリアムズの有に帰した。
 この時情婦のエデス・ペグラアは
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