れならば、クラン・マッキンタイア号の報告した大暴風雨を受けて、あっという間に安定《バランス》を失い、忽ち覆伏したものと考えるのが一番簡単ではないか。殊に、今度の第二回の航海に出るに当り、処女航海の経験に徴してワラタ号の船長は、非常に船の安定を気にしていたという事を思い合わすならば、此の想像は最も妥当性のあるものとなる。
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 この解釈が一般に行われて、今もそういうことになっているのだが、しかし、此れは何処までも、クラン・マッキンタイア号の報告するような大暴風雨が事実あったものということを前提にしての話しである。尤もワラタ号は「|頭の重い《タップ・ヘヴイ》」気味があって、何うかすると非道く動揺し易い傾向の船だったことは、色いろ証拠が残っている。荷物も、うんと積んでいたらしい。で、荒海《しけ》を食らって揺れが激しくなる。船艙《ハッチ》の荷物が動いて片方へ寄る。こうなると傾斜は直らないところへ、益ます猛烈に浪をかぶる。一際大きな怒濤が来れば、即座に万事解決、簡単に引っくり返るであろうことは想像出来るのである。濠洲からダアバンまでワラタ号に乗って来て、余り「頭が重く」て揺
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