うじて祖国をドイツへ渡したのだ。売国奴だ。」
 この叫びがひろまって、マルヴィの公判となる。四人の前首相が弁護に立ったが、戦時で軍人が威張っている。ニヴィイユ一派の軍閥が勝って、マルヴィ氏は失脚、七年間の追放に処される。やがて平和回復、人心秩序の樹立に飢えている時、大統領エリオットに特赦《とくしゃ》されて、マルヴィ氏はふたたび入閣したが、議会の反対党は彼を忘れなかった。
「マタ・アリ! マタ・アリ! マタ・アリ!」
 の弥次《やじ》に完全に封じ込まれて、何度も壇上に立往生した末、七年間の恥と苦痛に健康を害《そこ》ねている。卒倒してしまった。才腕ある士だったが、まもなく政界を退《ひ》いている。

 二年後に、ある婦人記者が、マルヴィ氏を追った軍閥の一人、大戦当時の陸軍大臣メサミイ元帥―― Messimy から驚くべき告白を取った。マタ・アリの恋人M――Yはこの General Messimy だった。



底本:「浴槽の花嫁−世界怪奇実話1[#「1」はローマ数字、1−13−21]」教養文庫、社会思想社
   1975(昭和50)年6月15日初版第1刷発行
   1997(平成9)年9月30日初版第8刷発行
入力:大野晋
校正:小林繁雄
2006年9月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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