人が、肉体的に、また精神的に、ジャックの一生をめちゃくちゃにしたのだ。悪疾に侵されたかれの頭脳において、一人の罪は全般が背負うべきものという不当の論理が、ごく当然に醗酵《はっこう》し生長したかもしれない。
その間も、ロンドン警視庁へは海外からの情報がしっきりなしに達していた。
このすこし以前、北米テキサス州で、冬から早春にかけて、リッパア事件に酷似《こくじ》した犯罪が連続的に行なわれたことがあった。もっとも、ロンドンのほど野性に徹した犯行ではなかったが、同じような性器の解剖が屍《し》体に加えてあった。この被害者は、限定的に、同地方に特有の黒人の売笑婦だった。
犯人は外国生れの若いユダヤ人であるといわれていたが、もちろん自余《じよ》のことはいっさい不明で、やはり捕まっていない。ロンドンでリッパア事件が高潮に達した時、テキサス州の有力新聞アトランタ・カンステチュウション紙は、この黒婦虐殺事件の顛末《てんまつ》を細大掲げて両者の相似点を指摘し、ジャック・ゼ・リッパアは、このテキサスの犯人が渡英して再活躍を始めたに相違ないと論じたが、その当否はとにかく、ロンドンでリッパア騒動が終塞《しゅ
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