きまって咽喉《のど》の一|刷《は》き、つづいて、解剖のような暴虐が屍《し》体の下部に加えられて、判で押したように、かならず子宮がなくなっている。同一人の連続的犯行であることは明白だ。人心は戦《おのの》き、新聞はこの記事で充満し、話題はこれで持ちきり、警察を焦《もどか》しとする素人《しろうと》探偵がそこに飛び出し、その筋は加速度にやっきになっている矢先――いうまでもなく九月八日の夜はもちろん、その以前から、イースト・エンド全体にわたって細緻《さいち》な非常線が張られ、櫛《くし》の歯を梳《す》くような大捜査が行なわれていた。その網の真ん中で、人獣《リッパア》「斬裂人のジャック」は級数的に活躍し、またまたこのハンべリイ街のアニイ・チャプマン殺しによって、もう一つその生血の満足を重ねたのである。およそ出没自在をきわめること、これほど玄妙《げんみょう》なやつは前後に比を見ないといわれている。いわゆる無技巧の技巧、なんら策を弄《ろう》さないために、かえって一つの手がかりすら残さなかった。
個々の犯行を列挙《れっきょ》することは、いたずらに繁雑《はんざつ》を招くばかりだから避ける。ただ、そのなか
前へ
次へ
全59ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング