男の下に両脚をひろげる。この男が馬乗りになって、女の咽喉《のど》を一|刷《は》きするのになりよりもつごうのいい、まるで兇刃《きょうじん》を招待するような姿態である。下部の切開がそれにつづいた。だから、被害者は、性行為の以前に殺されたのか以後に刃を受けたものか、いずれも下半身がめちゃめちやになっているので判断のくだしようがなかった。が、行為の直後に行なわれたと見るべきが至当《しとう》であることに、専門家の意見は一致していた。
連続殺人のうち、その多くは戸外で行なわれた。あの迷園のようなイースト・エンドを構成する暗い四つ角、年中じめじめ[#「じめじめ」に傍点]と悪臭に湿っている小路《アレイ》、黒い低い建物に取りまかれた中庭、それらが惨劇の舞台だった。バックス・ロウ街の時には、屍《し》体はある一軒の家の表階段に倚《よ》りかかっていた。一つの例外は、惨劇中の惨劇といわれた、スピタルフィイルド区、ドルセット街ミラア・コウトの納屋《なや》のような見る影もない自室におけるケリイはまたワッツの惨屍体であった。
この人妖「斬り裂くジャック」は前後をつうじて、たった一度一人の人間に顔を見られて話をして
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