民のような顔をして住んでいるのか。これらが、当時謎の中心であったごとく、今日なお謎の中心である。実際の殺人は、たびたび言うようだが、その狂暴残虐なこと言語に絶し屍体はすべて野獣的に切断され、支離滅裂をきわめていた。しかも、犯行が重なるにつれてその度を増し、ついにいかなる鋼鉄製心臓の持主をも一瞥驚倒《いちべつきょうとう》せしむるに十分であるにいたった。そのことごとくを詳述することは印刷物の性質上許されないが、各犯行をつうじて、その方法経過は大同小異だった。ことにそれが、ある超特恐怖の状態において終っていることは、すべて一致していた。いうまでもなく一特定人――リッパア・ゼ・ジャック――の所業《しょぎょう》である。そして彼が左手|利《き》きであることも、種々な場合の刀痕《とうこん》を総括して、動かぬところと専門家の間に断定されていた。被害者は、夜の巷《ちまた》をさまよう売春婦にかぎられ[#「かぎられ」に傍点]ているのである。それも、そういう階層のなかでももっとも低い、もっとも貧困な、もっとも不幸な女たちに排他的[#「排他的」に傍点]にきまっているのである。その一つ一つの屍《し》体のまぎれもな
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