油の煙りが濛々と立ち昇る。合爾合《カルカ》姫と侍女らは、凝然と露台の外を見守る。
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合爾合《カルカ》姫 (ひとり言のように)昔の成吉思汗《ジンギスカン》の恋が、ここへ来て、こんな恐しい仕返しをしようとは――。(泣く)
侍女二 お察し申し上げます。
侍女一 でも、殿様のあのお言葉、ほんとうに女冥利、嬉し涙が溢《こぼ》れてなりませぬ。
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この時、血染れの将校一人、露台上手から走り込んで来て、叫ぶ。
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将校 (妃に敬礼して、木華里《ムカリ》の看視兵へ)おい! 表門に石を積んで、かなわぬまでも備えをするのだ。猫の手も借りたい場合だ。その軍使は縛ってあるのだろう。そいつをそのままにして、お前たち、皆来い。
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看視兵ら、声に応じて将校とともに、露台上手へ駈け去る。舞台ほの暗く、正面の露台から星明りが差し入る。砂漠の外れがかすかに青み、月の出は刻々近い。
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