さらばです。降伏の貢物として、妃の合爾合《カルカ》姫を、今宵一夜、単身|成吉思汗《ジンギスカン》の陣屋へお遣しなさるよう。条件というのは、ただこの一つだ。
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円柱の陰で合爾合《カルカ》姫はひそかに驚く。
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札木合《ジャムカ》 (愕然と顔色を変えて)なに、奥を、合爾合《カルカ》姫を、今宵一夜、ただひとり成吉思汗《ジンギスカン》の許へよこせと?
台察児《タイチャル》 (気色ばんで)うむ! 嫂上《あねうえ》合爾合《カルカ》姫の、一夜の身体《からだ》が所望だというのだな。
木華里《ムカリ》 さようです。合爾合《カルカ》姫が、日没と同時にただ一人、成吉思汗《ジンギスカン》の陣営へ来ればよし、さもなければ、城も人も、木っ葉微塵に踏み躙るまでのことだ。札木合《ジャムカ》! 返答はどうだっ!
札木合《ジャムカ》 言うな、汚らわしい! かの成吉思汗《ジンギスカン》め、数年前に失った恋を、いま力ずくで遂げようというのだな。あれ以来、胸の底に燃えておった、わが妃合爾合《カルカ》への妄念を、この機会に霽らそうと言うのだ
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