れば、遺憾ながら、暁を待たずに城内へ殺到し、嬰児《あかご》の果てにいたるまで、一人残らず殺して廻るだけだ。札荅蘭《ジャダラン》族を種子切《たねぎ》れにしてやるのだ。
[#ここから3字下げ]
中仕切りの陰に、避難民の悲鳴、子供を抱きすくめる気配などする。室内は薄暗くなり、正面露台の外の夕空に、星が瞬き、はるか下の成吉思汗《ジンギスカン》軍の天幕《テント》には灯が入り、砂漠一面に点々として明滅する焚火。戦いは一時中止されて、無気味な静寂。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
札木合《ジャムカ》 (黙考の後)出世に焦って、血も涙もない成吉思汗《ジンギスカン》だ。ことには、仔細あって、われに含むところのあるきゃつのことだ。いや、それくらいのことはするであろう。赤児まで敵の片割れとばかり斬り虐《さいな》んで、札荅蘭《ジャダラン》族は一人あまさず、かの砂漠の虎、成吉思汗《ジンギスカン》めの餌食となるのか――。
[#ここから3字下げ]
避難民達、中仕切りの陰から口々に叫んで、札木合《ジャムカ》に降伏をすすめる。兵士ら叱りつけて制する。
[#ここで字下げ終わり]
[
前へ
次へ
全94ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング