速かに使いの趣きを言え。
木華里《ムカリ》 (縛された手を振り、怒って)いいや! 軍使を扱う途を知らぬから、肝心の使いの趣きがこの口から出ないのだ。まずこの縛《いまし》めを解いて、相当の礼をもって対するがよい。
台察児《タイチャル》 兄上、繩を解いてやりましょうか。
札木合《ジャムカ》 (怯えて突っ立つ)何を言う! こやつの繩をといてたまるものか。不敵な面魂、何をするかわからぬ。もっと高手小手に、がんじがらめに縛り上げてしまえ。
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城兵二三人、木華里《ムカリ》の肩から腹へかけてぎりぎりに縛り上げる。
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台察児《タイチャル》 (抜刀を振りかぶってその後ろに立ち)気をつけて口をきけ。一太刀だぞ!
木華里《ムカリ》 (争わず。平然と縛るに任せながら)ははははは、このおれ一人が、そんなに恐しいか。わが成吉思汗《ジンギスカン》様の軍中には、おれくらいの大男はざらにいるのだ。では、このままで結構だ。(ぐっと起ち上がって、王座を睨む)札荅蘭《ジャダラン》の札木合《ジャムカ》王に申す。食糧もなき城中に、罪なき城
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