塁を上って来る)惜しい勇者でしたが、三の濠へ行き着かぬうちに、たちまち敵の矢を浴びてこの有様です。
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裸かの全身に矢の突き刺さった死体を、札木合《ジャムカ》の前に下ろす。みな暗然として屍骸に見入る。城兵一人、上手の扉より駈け入る。
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城兵 城主様。ただいま、成吉思汗《ジンギスカン》の軍使と称する大男が、ただひとり乗り込んでまいりましたが、いかが取り計らいましょう。
台察児《タイチャル》 (剣の柄《つか》を叩いて気負い)なに、成吉思汗《ジンギスカン》から使いが来た? 兄上、そいつの首を斬り落して、敵中へ投げ込んでやろうではありませんか。
札木合《ジャムカ》 (はっ[#「はっ」に傍点]としたが)まあ、待て! どんな条件を持ち込んで来たのかもしれぬ。よし、会おう。本丸の大広間へ通しておけ。危害を加えてはならぬぞ。
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兵卒は一礼して駈け入る。札木合《ジャムカ》は、台察児《タイチャル》、参謀らを促して、上手の扉より城内へはいろうとする。避難民等、城主の一行に途をひらきながら、一斉に平
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