を引き裂き、その布切れで、肩、肘、手首、股のつけ根、膝、足首など、両の手足の関節を伝令二に緊縛してもらって、抜刀を口にくわえ、素早く砦を下りかける。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
伝令一 私が行って来ます。
札木合《ジャムカ》 うむ、勇ましいぞ。だがそち、身体のところどころを縛って行くのは、どうしたわけだ。
伝令一 はっ、血止めであります。こうして行けば、腕や足に矢が当り、または敵と引っ組んで斬られましたところで、血の出るのは、縛ってある布と布との間だけです。全身の血さえ流れ出ねば、どのような働きもできようと思いまして――。
札木合《ジャムカ》 うむ、行けっ!
[#ここから3字下げ]
伝令一は、城寨を伝わって断崖の下へ下りて行く。後は、飛来する矢いっそう繁く、札木合《ジャムカ》、台察児《タイチャル》をはじめ一同無言のうちに弓を引き絞り、銃眼より射落して必死に戦う。避難民らは叫び声を揚げて逃げ惑う。しばらく物音のみ激しき防戦の場。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
衛兵 (今下りて行った伝令の裸体を担いで、堡塁を上って来る)惜しい勇者でしたが、三の濠へ行き着かぬうちに、たちまち敵の矢を浴びてこの有様です。
[#ここから3字下げ]
裸かの全身に矢の突き刺さった死体を、札木合《ジャムカ》の前に下ろす。みな暗然として屍骸に見入る。城兵一人、上手の扉より駈け入る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
城兵 城主様。ただいま、成吉思汗《ジンギスカン》の軍使と称する大男が、ただひとり乗り込んでまいりましたが、いかが取り計らいましょう。
台察児《タイチャル》 (剣の柄《つか》を叩いて気負い)なに、成吉思汗《ジンギスカン》から使いが来た? 兄上、そいつの首を斬り落して、敵中へ投げ込んでやろうではありませんか。
札木合《ジャムカ》 (はっ[#「はっ」に傍点]としたが)まあ、待て! どんな条件を持ち込んで来たのかもしれぬ。よし、会おう。本丸の大広間へ通しておけ。危害を加えてはならぬぞ。
[#ここから3字下げ]
兵卒は一礼して駈け入る。札木合《ジャムカ》は、台察児《タイチャル》、参謀らを促して、上手の扉より城内へはいろうとする。避難民等、城主の一行に途をひらきながら、一斉に平
前へ
次へ
全47ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング