切った汽車の温気で、肉類は腐り易い。で、悪臭のする荷物が着くと、必ず駅員が立ち会って、その面前で受取人に開かせた上、異状無しと見て引き取らせることになっているのだ。で、今日もそこまでは進んだのだが、脛《すね》に傷|有《も》つ二人は、鍵を忘れたと称して逃げ去ったわけで、それに、警察への届出の比較的遅れた理由の一つは、駅のほうでは、二人は後刻必ず再び受取りに来るものと、信じて疑わなかったからでもあった。
 それに、チッキ主任ブルッカアは、何うもあの青年の顔に見覚えがあるようだと言う。去年の降誕祭の前後に、何処だったか、この羅府の店で働いていたのを見掛けたことがあるような気がする――。
「ジョウジ・ブルッカアは、もう退けて家へ帰っていますが、何でしたら、そちらへ御案内致しましょう」
 というアンダスンの言葉に、S・Pの探査員ヴァン・ドュ・マアクとトレス刑事が、其の場から直ぐブルッカアの家を訪れた。が、ブルッカアの言は、要するにそれ丈けの事で、いま顔を見れば、無論覚えているが、名前などは知らないというのだ。ところが、このブルッカアが鳥渡した機みで、その青年が停車場へ乗って来た、古いフォウドのロ
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