せん!」
「まあ、いい。一人でやったことですか」
「さあ、何うですか」
「お前一人の仕事かと訊いているんだ」
「あなたの問いにはお答え致しません」
「死骸をトランクへ詰めるのに、誰か手を貸した者があるだろう――おい! 重かったろう? あの肥っちょのほうの死骸は」
 ルウスは、引き裂くような悲鳴を上げて、両手で顔を覆った。
「ねえ、奥さん、仲好く話し合いましょうや。アリゾナへお帰りになり度くはありませんか」
「え、帰り度いと思いますわ。私、アリゾナが大好きですの」
「私は、こんな腰弁で金も暇もありませんが、これでも旅行が大好きなんですよ。休暇というと旅行に出るんです。それも定ってアリゾナへ行くんですがねえ。一度行ったら病みつきになってしまって、はっはっは、実に好いところだ。沙漠と言ったって、この辺の南部の沙漠とは全然趣きが違っていますね。第一空の色が、こんな羅府などとは比べものになりませんよ。ねえ、奥さん」
「え――一度アリゾナへいらしった方は、皆さんアリゾナがお好きになりますわ。ほんとに好いところですもの」
「殊にフォニックスは、私にとって忘れられない町です。木に囲まれた真珠のような綺
前へ 次へ
全68ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング