が、この八月八日のことで、それ以来、各地を転々して、ジュッドは、その八月初旬から妻に会わずにいるのだ。現在はビスビイの方の仕事は済んで、半ば休養を兼ねて、サンタ・モニカの妹の処へ来ているというのである。が、今日明日にもフォニックス市へ帰る積りであった。
「私は大戦に出征して負傷したのです」
 ジュッド医師は言う。
「それから身体が弱くなって、時どき休まなければなりません。そのために開業することは出来ず、生活もあまり楽でないので、そのために家内も前に言ったようにグルノウ療養院に勤めたりしたのでした。そこで伝染したのではないかと思うんですが、家内も肺結核の気味があるんです。私がアリゾナを出て来る頃は、病勢はちょっと進みかけて、次第に依っては、この加州パサデナの肺療養院へ呼び寄せようかと思ったことがあった位いです。が、その後快くなって、元気にやっているようでした。アリゾナは空気が好いので、彼女の健康のためにも、私はずっとあの町に住んでいたのです」
 このルウス・ジュッド夫人も、看護婦上りなのだ。ジュッド医師が、インディアナ州エヴァンスヴィルの州立精神病院に勤務中、そこで逢ったのだということだ
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