義兄は非常に驚きましたが、結局、ルウスから何か言って来るまで静かに待つよりほか仕様があるまいと言うことになったんです。で、そういうことに相談を決めて、ケリイには何も知らせ度くないので、その後は何気なく雑談を交わした丈けです。其処へあなた方がいらしったんです」
「君が最後に別れた時、姉さんは何んな服装をしていたか」
「黒と白のドレスを着ていました。帽子は、多分黒だったと覚えていますが――」
 それからは何んなに訊問しても、バアトンは姉の行動に就いて一言も吐かないし、また事実それ以上は知らないらしくもある。実際、ルウス・ジュッド夫人が自動車を下りて以来、一度も会っていないことは確からしいのだ。正午の羅府の下町である。織るような人通りで、ルウスは忽ち其の人波に呑まれて見えなくなったという。
「若しほんとに姉が、あのトランクの中の女二人を殺したものとすれば、その時発狂していたに決まっています」バアトンは懸命に、姉のジュッド夫人を弁護して、「そして又、姉が悪いにしたところで、僕は姉の弟です。姉に取って不利益になる事は、例い知っていても言う訳にいきません」


 ジュッド医師は、四十八歳の温厚な小
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