呉れと言うんです」
何うも様子が変なので、よく問い質してみると、其のトランクを一刻も早く処分しなければならないという姉の言葉である。バアトンは可怪しいと思ったが、兎に角、言われる儘に自動車を引き出し、姉を乗せて停車場へ向った。途中ルウスが、その二個のトランクを海へ持出して沈め度いのだが――と言い出したので、これにはバアトンも吃驚して、色いろ理由を訊ねたけれど、ルウス・ジュッド夫人は、肝心の事は弟にも打ち明けなかった。
これは何か訳があるとは思ったが、何も訊かずに姉のために働く気になったバアトン・マッキンネルは、駅の手前でちょっと車を停めて、綱《ロウプ》を買った。トランクを沈めにかける時に、こいつで縛ろうというのだ。が、停車場へ行って荷物を見ると、バアトンも仰天したという。トランクの廻りに、蠅がぶんぶん唸って飛んでいた。
「後は御承知の通りです。駅の荷物部屋で開けられそうになったので、鍵を忘れて来たと言って逃げたのでした」
停車場を離れて小一町も走らせると、金を持っていないかとルウスがバアトンに訊いた。五弗しか持合わせがなかったので、バアトンはそれだけ姉へ渡して、すぐ何処かへ飛んで
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