蒼白なものが漲っているような気がする。
 今日は何か起る!
 警察と新聞社がタイ・アップして、文字通り歩道の石を起すような捜索なのだ。もう、ルウスの逮捕は時間の問題に相違ない。賞金は二千五百弗、市民は眼の色を変えて、ルウス騒ぎに熱中しているのだから、もし、まだ生きているとすれば、案外公々然と、刑事や記者の眼に触れながら、それとは気が付かれずに静かにしているに相違ない。
 午後四時三十分、このはち切れそうな緊張に、電波のように揺り動かして、閃いたものがある。
 電話のベルだ。
 課長秘書のマデリン・ケリイが、受話機を取り上げると直ぐ、彼女はそれを、タイムス社のアルバアト・ナダン記者へ差出して、
「あなたへ電話ですよ」
 タイムスに其の人在りと知られた、警察係ナダンは、暫く電話で暗合のような言葉を話し合っていたが、
「そうかい。じゃあ、兎に角行って見よう」
 と、静かに言うと、そのまま退屈そうな顔で、ぶらりと捜査本部を出て行く。
 ナダン記者の背後に、揺れ扉が閉まるか閉まらないに――。
 また、電話だ。
 今度は、課長テイラア氏へ。


 と、思うと、課長室で鈴が鳴って、秘書のマデリン・ケリイを呼んでいる。
 這入って行って机の前に立つと、テイラア課長は、きらりと輝く眼を上げた。
「アレキサンダア・ホテルへ電話を掛けて、フォニックス地方検事アンドリウスさんに、直ぐ此処へ来るように言って呉れ。今夜、アリゾナへ帰る予定なんだが、直ぐそれを変更して、本署へ来て待つように――」
 待つ――とは、何を?
 見ると、課長は、帽子を被って部屋を出て行こうとしている。記者連の眼が、一斉に集中する。
「何処へ行くんですか」
 起って来て、口ぐちに訊くのだ。
「うん。ちょっと煙草を買いにね」
 ゆったりとした足取りで出て行く課長の後姿に、記者連は騒ぎ立って、
「煙草だと? 何を言やがる!」
「さあ、来た! こうしちゃあ居られねえ!」
「俺達も煙草を買いに出掛けようじゃねえか」
 一度に帽子を掴んで走り出した。
 所謂第六感が、彼等の足を動かすのだ――「アリゾナの女虎」事件に、眼鼻がつきかけて来た!
 一人あとに残されたマデリン・ケリイ秘書は、何か叫び上げ度いような興奮に駆られて、椅子にじっとしていることは出来なかった。


「おい! 見つかったぞ!」
 という電話が、捜査本部へ鳴り響いたの
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