We beg to inform Travellers to Ceylon that we issue, under special arrangements with the Governments of Ceylon and of India and Burma, tickets over all Railway Lines, and keep complete and detailed information of everything pertaining to travel in Ceylon, India and Burma−.
こういう、暑い夜の冒険を暗示する旅行会社の広告文書である。この小冊子的|煽情《せんじょう》に身をあたえて、せいろんへ、せいろんへ、せいろんへ、山高帽《ポラア・ハット》をへるめっとに替えた英吉利《イギリス》人が、肩からすぐ顔の生えているじゃあまん[#「じゃあまん」に傍点]が、|あらまあ《オウ・マイ》と鼻の穴から発声する亜米利加《アメリカ》女が、肌着《はだぎ》を洗濯《せんたく》したことのない猶太《ユダヤ》人が、しかし、仏蘭西《フランス》人だけは長い航海を軽蔑《けいべつ》して、本国で葡萄《ぶどう》酒のついた口ひげをていねいに掃除しているあいだに各国人を拾い上げたお洒落《しゃれ》な観光団が、トランクの山積が、写真機が、旅行券が、信用状が、せいろんへ、せいろんへ、せいろんへ――だれが言い出したともなく、一九二九年の旅行の流行《モウド》は、この新しく「発見されたせいろんへ」と、ここに一決した形で、いまのところ、せいろんは、すべての粋《シック》な旅行の唯一の目的地になりすましている。が、この島は何も今年出現したわけではなくドラヴィデア王国の古世から実在していたので、その証拠には、エルカラとコラヴァとカスワとイラルから成る多美児《タミル》族が、カランダガラの山腹に、峡谷に、平原に、カラ・オヤの河べりに、白藻苔《セイロン・モス》の潰汁《かいじゅう》で、和蘭更紗《オランダさらさ》の腰巻《サアロン》で、腕輪で、水甕《みずがめ》で、そして先祖の伝説で、部落部落の娘たちをすっかり美装させ、蠱化《こけっと》させ、性熟させて、ようろっぱの旦那《だんな》方が渡海してくるのを、むかあしから、じいっと気ながに待っていた。
錫蘭《セイロン》島――東洋の真珠――
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