》を通りながら、すこしも気のつかないことさえあった。が、最後に、ひとり離れて身長《みたけ》ほどもある葦《あし》を分けていた一警官が、偶然、草むらの水上に隠れている古いボウトを発見した。子供は、寝かされてでもいるのか、見えなかった。髯《ひげ》だらけの男がふたり、ボウトの上から野獣のような眼をして警官を見返していた。夕方のことである。相互から同時に発砲していた。
 が、音を聞いて、付近にいあわせた人々が駈けつけた時は、もう葦《あし》がボウトを呑《の》んでしまったあとだった。まったく、あっという間のことだ。一同はすぐに、胸まで水に浸《つ》かって追跡に移ったが、すでにボウトは、迫る夕靄《ゆうも》と立ち昇る水靄《みずもや》にまぎれて、影も形もなかった。

 しかし、この出来事は、すっかりモスタアとダグラスの心胆《しんたん》を寒からしめたものとみえる。彼らはいよいよ危険を感知して、その夜のうちに狼狽《あわ》てて陸へあがったらしい。水辺にばかり気を取られていた捜査線を見事に突破して、闇黒《くらやみ》とともにいずこへともなく逃走してしまった。たぶんチャアリイを伴《つ》れたまま。
 夜明けに、捜索隊の一
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