げて、早くも田舎の別荘へ避暑に行っていたが、この問題の一日《ついたち》の夕方、ロス氏が、市の中心にある自分の会社から帰って来ると、二人の愛息に付けてある若い保母が、玄関に立って、主人の帰宅を待ちながら泣いていた。
ひどくとり乱している。訊《き》いてみると、その二人の息子が、午後から姿を消して、邸の内外どこを捜してもいないというのである。ふたりの男の子は、上をウォルタアといって七歳、弟のチャアリイは三つで、どちらもロス夫妻が眼に入れても痛くない、愛くるしい子供たちだった。兄弟仲もよく、いつも一緒に跳《は》ねまわって遊んでいた。
はじめロス氏は、保母が責任を感じて狼狽《ろうばい》しているわりに、この報《しら》せを軽く受け取って、暢気《のんき》に聞き流した。
「なあに、子供のことだから、遊びにほおけて遠っ走りをしたのだろう。迷児《まいご》になっているのかもしれないが、たいしたことはないさ。もうすこし待ってみて帰って来なければ、警察に頼んで捜《さが》してもらおう。そうすれば、すぐ見つかるにきまってる。」
こうかえってロス氏が保母を慰めるような口調だった。
が、この清々《すがすが》しい初
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