う駄目だ――。」
「なにが駄目だ。」
「もうチャア公は見つかりっこない――おれも死ぬ間際だ。嘘は言わねえ。誘拐《ゆうかい》して、伴《つ》れて逃げ廻っているうちに、チャア公のやつ、すっかりモスタアに馴付《なつ》いちまって、モスタアの野郎もまた、柄になく、チャア公を自分の子供みてえに、大事に可愛がっていましたが、そのうちに、自分ひとりのものにしようてんで、私からも隠してしまった。私も癪《しゃく》にさわったが、だいたいこれはモスタアの思いついた仕事だし、仕方がないから胸をさすっていました。こういうわけで、このごろのチャアリイのいどころを知っているのは、モスタアだけなんでさ。いまそのモスタアに死なれてみると――もう駄目だ。親元には気の毒だが、もうチャアリイは見つかりっこ[#「見つかりっこ」は底本では「見つかりこっ」]ねえ――。」

 ニューヨークから急行した二人の顔を見知っているウォウリング警部は、一|瞥《べつ》してこの二個の死体をモスタアとダグラスと確認した。もう駄目だ。事件は、事件として綺麗《きれい》に解決したのだ。

 が、チャアリイはどこにいる?
 モスタアの頭部を粉砕したあの運命的な一個の弾丸は、モスタアの生命と一緒に、チャアリイの所在とその運命をも彼《あ》の世に運んでしまった。ことによると、モスタアは、チャアリイを愛するあまり、死んで彼のいわゆる「チャア公」を返さないつもりで、養子「チャアリイ」の可愛い記憶を蔵したまま独占の幸福に酔って息を引き取ったのかもしれない。しかし、ロス夫妻は諦《あきら》めなかった。諦め得なかった。残余の生涯と財産の全部をチャアリイの捜索に蕩尽《とうじん》して、ずっと昨年に及びながら、ついに二人ともチャアリイの名を死の口唇に残したまま、最近あいついで他界した。おそらく夫妻は、死んでもまだ諦めないであろう。そして一人の兄ウォルタアはいまなおチャアリイの帰宅を待っているのだ。
 チャアリイはどこにいる?
 もし、モスタアが沼沢《しょうたく》地方の葦《あし》の奥か、海岸の洞窟にでもひそかに匿《かく》したものなら、餓死が漸次《ぜんじ》にチャアリイを把握して、いまごろは、小さな白骨がまだらに散乱しているにすぎまい。
 しかし、一般にはこのチャアリイは生きているものと信じられている。生きていればいまは立派な青年紳士、いや、紳士ではあるまい。きっと、若
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