sum, too. If any approach is maid to his hidin plaice that is the signal for his anihilation.
[#ここで字下げ終わり]
 大変な名文である。訳す必要もあるまいが、概略記すと、「御子息チャアリイはおれたちといっしょにいるから安心するがいい。が、地上のどんな力もこの児を俺たちの手から取り上げることはできない。子供が欲しければ、その前に金を払うべし。それも大金である。もしなんとかして子供の隠れ場所へ近づこうとすれば、ただちにそれはチャアリイの死滅への合図となる。」
 砂糖の包み紙の裏へ走り書きをしてある。発信人の住所はもちろん、署名もない。が、ロス氏は、これでもうチャアリイが帰ってきたように喜んで、すぐさま、金を支払うことを承諾するからいっそう進んだ交渉に移りたい趣《おもむき》を、それとなく新聞広告にして出そうとした。相手の居所《いどころ》がわからないから、ロス氏は新聞広告を媒介《ばいかい》に意思を伝えるより方法がなかったのである。するとここへ、警察が割り込んできて、その手紙の返事を新聞広告に出すことを厳禁してしまった。
 ここらがはなはだデリケートな問題の生ずるところである。犯人は一日も早く子供を金に換えようと焦《あせ》っている。つまり多額なる値段でチャアリイをロス氏へ売り返そうとしている。ロス氏は、いかなる高値も辞せずにそれを買い戻そうとしている。いわば、ロス氏と誘拐《ゆうかい》者は、その利害において一致しているわけで、ロス氏さえ物質上の損をすれば、チャアリイは完全にロス氏の手へ返るはずだったが、警察は警察で、威信《いしん》ということもあれば、また別の観方《みかた》もある。そんなことをされては降参《こうさん》も同然で、まるで犯罪を助長するようなものだ。こういって極力ロス氏の腰弱の態度を排撃したから、この警察の干渉が邪魔《じゃま》をして、子供を提《さ》げてロス氏へ接近しようとする犯人に近づくことができず、警察を出し抜いてなんとかして直接犯人と交渉を進めたいと考えだしたロス氏には、ついに四六時中それとなく密偵の監視の眼が光るにいたった。警察としてはたしかにやむを得ない遣《や》り方であったろう。しかし、ロス氏の身になってみれば、まずなによりもチャアリイをこっちのものにすることが第一
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