性弁護士禁止の説を惹き起し、遂にテオドシウス帝(Theodosius)をして、その法典中に禁令を加えしむるに至った。この論法をもって推すならば、男子にも弁護士業を禁ずることにせねばなるまい。
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 三七 処分可レ依二腕力一[#「レ一二」は返り点]


 「古事談」に次の如き一奇話が載せてある。
 覚融《かくゆう》僧正臨終の時に、弟子共が、遺財の処分を定め置きくれよと、頻りに迫った。僧正は一代の高徳、今や涅槃《ねはん》の境に入って、復《ま》た世塵の来り触るるを許さないのであるが、余りにうるさく勧められるので、遂に筆硯《ひっけん》を命じて一書を作り、これを衆弟子に授けて後《の》ち入寂《にゅうじゃく》した。衆弟子、その遺書に基づいて分配をなさんものと、打寄ってこれを開き見れば、定めて数箇条の定め書と思いの外、
[#ここから2字下げ、「レ一二」は返り点]
処分可レ依二腕力一
[#ここで字下げ終わり]
の六字を見るのみであった。衆僧これには大いに閉口し、まさかに掴《つか》み合いをする訳にも往かぬと、互に円い頭を悩しているとのことが、白河法皇の叡聞《えいぶん》に達し、遂に勅裁をもって
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