に此故とは申難きことなれども、私《ひそか》に是を考へ思ふに、扨《さて》御奉行と申《もうす》は日々に諸方の公事訴訟を御裁判被レ成、御政務の御事繁く、平人と違ひ、年中に私の御暇有る事稀也、然ども遊女などの艶色を御覧の為にはあらざれ共、遊女はもと白拍子《しらびょうし》なり、されば御評定所の御会日の節、白拍子などを御給仕に御召あり、公事御裁許以後、一曲ひとかなでをも被二仰付一、 御慰に備へられん為に、上様より被二仰付一しものか云々。
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まさか「天下の政道を取|捌《さば》く決断所での琴三味線」「自分のなぐさみ気ばらしをやらるる」重忠様もなかったであろう。
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三二 判事ガスコイン、皇太子を禁獄す
判事総長ガスコイン(Chief Justice Gascoigne)が太子ヘンリー親王を禁錮に処した事は、古代の記録にも残っており、また往々英米の小学読本などにも載っている最も有名な話である。
英帝ヘンリー第五世がまだ太子であった頃、或るとき親王の寵臣某が偶《たまた》ま罪あって捕えられ、遂に「王座裁判所」(King's Bench)において公判を開かれるこ
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