わごと》を申す奴かな。病の故に人が厭わば、その病を癒《いや》したる医者が証人に立つのは当然の事ではないか。汝これを拒むからには、この者の病は未だ癒えざるは必定。癒えずと知りつつ癒えたりと申し立てて、礼金を騙《かた》らんとするは、仁術を事とする輩にあるまじき事なり、重ねて訴え出で苦情申し立つるにおいては、そのままには差置き難い。以後をきっと慎みおれ」と、大喝一声|譴責《けんせき》を加えた上、町名主《まちなぬし》五人組へ預けたので、一同その明決に感じ合ったということである。
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二九 幽霊に対する訴訟
アイスランドは、中世紀頃北欧において一時勢力を逞《たくま》しうした「北人」(Northmen)が、西暦第九世紀頃に発見移住した北海中の一孤島であるが、既に法律生活に馴れた北人が新たにこの無人島に移住して、漸次政治的社会を建設するようになったのであるから、その発見当時の歴史は、吾人に大なる教訓と興味とを与えるのである。ジェームス・ブライス氏(James Bryce)がその著「歴史および法律学の研究」(Studies in History and Jurisprudence
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