閨sせきしゅ》に集めて、彼は骰子を地に抛《なげう》った。見よ、戞然《かつぜん》声あって骰子の一個は真二つに裂けて飛んだ。一片は六を上にしている。一片は一を上にしている。そして他の一個の骰子は六を示しているではないか。彼は実に天佑《てんゆう》によって勝ち得べからざる勝を贏《か》ったのである。満堂いずれも奇異の思いをなして一語を発する者もない。
 さすがのラルフも神意の空恐ろしさに胆を冷して、忽ち自分が下手人であることを白状した。「これ実に神の判決なり」と、公はかく叫んで、直ちに死刑の宣告を下されたということである。
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 二七 最も長き訴訟


 訴訟は時として随分長曳くもので、シェークスペーヤの“Law's delay”という言葉が名高くなっている位であるが、我輩の知っている限りでは、古来最長の訴訟は、有名なる英国のバークレー(Berkley)事件であろう。同事件は一四一六年に始り一六〇九年に終り、前後百九十年余も継続したのである。
 ヘンリー五世の時のロード・バークレーは四代目でトマスという人であったが、エリザベスという一人の娘の外には子がなかった。しかるにエリザベスはワ
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