ノは違いないが、その目的の中には、直接被害者たる個人、およびその家人、親戚並に間接被害者たる公衆の心的満足というものをも含んでいることを忘れているのは、確かに彼らの欠点である。形こそ変れ、程度こそ異なれ、木を斬罪《ざんざい》にし、牛を絞刑《こうけい》にし、「子のあたまぶった柱」を打ち反《かえ》す類の原素は、文明の刑法にも存してしかるべきものである。いわゆる「正義の要求」とは、この心的満足をいいあらわしたものではあるまいか。学者は、往々この情性を野蛮と罵《ののし》って、一概にこれを排斥するけれども、これ畢竟刑法発達史を知らず、且つまたこの報復性は、種族保存に必要な情性であって、これあるがために、権利義務の観念も発達したものであることを知らないからである。
[#改ページ]
二六 死の骰子《さいころ》
ドイツの帝室博物館に皇帝よりの御出品として「死の骰子」(Der Todes Wurfel[「u」はウムラウト(¨)付き])という物が陳列してある。第十七世紀の半ば頃、この骰子《さいころ》をもって一の疑獄が解決せられたという歴史附の有名な陳列品である。
事実は次の如くである。或一人の
前へ
次へ
全298ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
穂積 陳重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング