sあなが》ち怪しむには足るまい。
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子のあたま、ぶった柱へ尻をやり
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という川柳があるが、この法の精神を説明し得たものといってもよかろう。
 刑罰を正義の実現であるとする絶対主義は、非常に高尚な理論で、目をもって目に報《むく》い、歯をもって歯に報《むく》ゆる復讐主義は、甚だ野蛮の思想であるかの如く説く学者も多いが、元来絶対主義論者が信賞必罰は正義の要求であるとするのも、復讐主義において害を加えたる木石禽獣または人類に反害を加えて満足するのも、畢竟《ひっきょう》同じ心的作用即ち人類の種族保存性から来ているのである。この二主義が同一系統に属するものであるという事は、絶対主義の主唱者とも言うべきカントが、刑法は無上命令(Categorischer Imperativ)なりと言い、たとい国を解散すべき時期に達したとしても、在監中の罪人はことごとく罰せねばならぬと論じ、同時にまた刑罰は反座法(Jus talionis)に拠るべしと言ったのでも知る事が出来よう。
 また一方において、相対主義論者は、刑罰は社会の目的のために存しているという。なるほどそれ
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