るいはまた東京府下代言人有志者百余名等からも断行意見書が発表され、延期派では当時まだ若手であった花井|卓蔵《たくぞう》君なども盛んに筆を執って延期論を起草された。当時我輩も、法理上から民法の重《おも》なる欠点を簡単に論じたものを延期派の事務所に送って、意見書中の一節とせられんことを請うたが、事務所から「至極尤もではあるが、この際利目が薄いから御気の毒ながら」と言うて戻して来た。なるほど前に挙げた意見書でも分るような激烈な論争駁撃の場合に、法典の法理上の欠点を指摘するなどは、白刃既に交わるの時において孫呉を講ずるようなもので、我ながら迂濶《うかつ》千万であったと思う。要は議員を動かして来るべき議会の論戦において多数を得ることであった。その目的のために大なる利目《ききめ》のあったのは、延期派の穂積八束氏が「法学新報」第五号に掲げた「民法出デテ忠孝亡ブ」と題した論文であったが、聞けばこの題目は江木衷博士の意匠に出たものであるとのことである。双方から出た仰山《ぎょうさん》な脅し文句は沢山あったが、右の如く覚えやすくて口調のよい警句は、群衆心理を支配するに偉大なる効力があるものである。
 かく
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