って、自ら得たりとしておった。ムーア判事長は大いにこれを片腹痛きことに思い、折もあらば懲らしめてくれようと待ち構えておった。
 或時、有名な掏摸の名人が捕われたことがあった。裁判の前日、ムーアは密《ひそか》に彼に会って密計を授けた。明くれば裁判の当日である。かの判事は、例の如く先ず大喝一声被害者を叱り飛ばし、さて犯人の訊問に移った。犯人は神妙気に述べていう、「かくなる上は何事をか包みましょう。さりながら、ここに一つ何とあっても公言致し難い秘密がございます。これだけは何とぞ閣下の御耳に就いて申し述べさせて頂きたい」と、頻《しきり》に願うので、判事はこの危険なる被告を身近く召し寄せて、何事をか聴き取った。
 かくてこの日の裁判も終ったので、裁判官は一同休憩室に入って、四方八方《よもやま》の話に耽《ふけ》った。ムーアは突然例の判事に向って、「目下何々慈善事業のために義金募集の挙があって、我輩も既に寸志を投じたが、君にも御志があるならば御取次致そう」と言い出した。判事は早速承諾の意を表し、「それでは何分願います」と、ポケットに手を差し入れたが、忽ち周章の色を顕《あらわ》して、頻にあちこち掻《か
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