ク、その櫃は長さ僅に三尺五寸ばかりで、辛うじて身を容れるに過ぎないものである。故にローフェスタイン城からゴルクム町に達するまで、グローチゥスは窮屈なる位置姿勢で忍ばねばならず、もしまた運送の人夫が倒様《さかさま》に櫃を置いたり、あるいは投げ出しでもしたなら、それこそ大変、生命の危険にも立ち及ぶ虞《おそ》れがある。なおまた櫃の蓋を密閉するときは、窒息の禍を招かぬとも限らないのであった。
 かような仕儀《しぎ》であるから、マリア夫人は種々苦心熟慮の末、かつて雇傭してその心を知り抜いている忠僕と忠婢に、予《あらかじ》め密計を語って、城外にてその櫃を受け取り、直ちにこれをゴルクム町の友人の家に護送する事を依頼した。またその櫃には小さい孔を穿《あ》けて、空気の流通を自由にし、しばしばグローチゥスをこれに入れて試験を行い、それからひたすら、好機会の到来を侍っておった。
 偶《たまた》ま典獄なる司令官が公務のために他所へ旅行した事が分った。これこそ天の与えた好機会と、その不在中にマリア夫人は、夫グローチゥスが伝染病に罹ったと称して、監守兵らが両人の監房に出入するのを遠ざけ、且つ司令官の妻を訪問して、
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