認められるまで、遺憾ながら無銘にして置きます」と言われた。
また本年四月、我輩の故郷なる伊予の宇和島にて、旧藩主伊達家の就封三百年記念として、藩祖を祀った鶴島神社の大祭が行われたが、その時旧城の天主閣において、伊達家の重器展覧会が開かれた。その折り場内に陳列されたものの中に、旧幕時代に佐竹家より伊達家に嫁せられたその夫人の嫁入道具一切が陳列されてあったが、大小数百点の器物は、ことごとく皆精巧を極めたる同じ模様の金蒔絵であって、色彩|燦爛《さんらん》殆んど目を奪うばかりであった。多数の観覧人の中に、村落から出て来たと見える青年の一団があったが、その中の一人賢こげに同輩を顧みて曰く、「これはまことに見事な物じゃ。こんな物はとても日本で出来るはずはない。舶来であろう。」
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六四 グローチゥス夫人マリア
フーゴー・グローチゥス(Hugo Grotius)は、国際法の鼻祖であって、その著「平戦法規論」(De jure belli ac pacis)は国際法の源泉であることは、人の好く知るところである。
しかしながら、近世の文明世界が、国際法の基礎的経典とも称すべきこの
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