け、国法の重んずべきこと、また一私人の判断をもってこれに違背するは、即ち国家の基礎を覆さんとするものであるということを論じ、更にクリトーンに向って、
[#ここから2字下げ]
我らはこれに答えて、「しかれども国家は已《すで》に不正なる裁判をなして余を害したり」と答うべきか。
[#ここで字下げ終わり]
と言い、クリトーンが、
[#ここから2字下げ]
勿論です。
[#ここで字下げ終わり]
と言ったのに対して、
[#ここから2字下げ]
しからば、もし法律が、ソクラテスよ、これ果して我らと汝と契約したところのものであるか。汝との契約は、如何なる裁判といえども国家が一度これを宣告した以上は、必ずこれに服従すべしとの事ではなかったかと答えたならば如何に。
[#ここで字下げ終わり]
と言い、更にまた、たとい悪《あ》しき法律にても、誤れる裁判にても、これを改めざる以上は、これに違反するは、徳義上不正である所以《ゆえん》の理を説破し、なお進んで、
[#ここから2字下げ]
凡そアテネの法律は、いやしくもアテネ人にして、これに対して不満を抱く者あらば、その妻子|眷族《けんぞく》を伴うて、どこへなりともその意に
前へ 次へ
全298ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
穂積 陳重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング