、否《しから》ザレバ死ヲ与ヘヨト唱ヘシモ、英国ノ暴政ニ苦シムノ余、民ヲ塗炭《とたん》ニ救ヒ、一国ヲ不覊独立ノ自由ニセント死ヲ以テ誓ヒシコトナリ。当時有名ノフランキリン[#「フランキリン」に傍線]ガ云ヘルニハ、我身ハ居ニ常処ナシ、自由ノ存スル所即チ我居ナリトノ語アリ。サレバ、此自由ノ字義ハ、初編巻之一、第七葉ノ割註ニモ云ヘル如ク、決シテ我儘放盪ノ趣意ニ非ズ。他ヲ害シテ私ヲ利スルノ義ニモ非ラズ、唯心身ノ働ヲ逞シテ、人々互ニ相妨ゲズ、以テ一身ノ幸福ヲ致スヲ云フナリ。自由ト我儘トハ、動モスレバ其義ヲ誤リ易シ。学者宜シクコレヲ審《つまびらか》ニスベシ。
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 これに依りて観れば、支那においては、これより以前既に「自主」「自専」「自立」などの訳字があり、また我邦においても、加藤先生は慶応四年出版の「立憲政体略」には「自在」と訳し、「行事自在の権利」「思、言、書自在の権利」「信法自在の権利」などの語を用いられ、同年出版の津田真道先生の「泰西国法論」にも「自在」と訳し「行事自在の権」「思、言、書自在の権」などの語を用いられているが、福沢先生は不満足ながらこれより先き既に案出せられ
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